ARURA
アルラチベット医学センター お問い合わせ サイトマップ
チベット医学 歴史 医学理論 特別療法 薬材資源
アルラチベット医学センター 病院 教育 医薬研究所 医薬品
 
 
 
1.油脂療法
2.瀉下療法
3.催吐療法
4.滴鼻療法
5.浣腸療法
6.利尿療法
7.罨法
8.薬浴療法
9.塗擦療法
10.針療法
11.蓬灸療法
12.瀉血療法


チベット医学の針療法とは金属を針、刀等の鋭利な機器に加工し、人体の一定の穴位(針や灸を打つ人体の部位の総称)や部位にその針を打ち、体内に蓄積された老廃物、膿血、腫瘍、異物及び病原を排出する治療方法です。チベット医学経典《四部医典》ではその一章が割かれ、針療法における、機器、穴位、方法、効果等が詳細に論述されています。西暦12世紀著名なチベット医学者ジャト・ベンデンツォジが書いた《解剖明灯》には、死体解剖の実践から得た詳細な人体解剖図が描かれており、これらは針療法など外科手術や療法の基盤とされました。14世紀、チベット医学北派チャンバ・ナムジェチャプタン、南派ソルカ・ニェムニドジェ等多くの歴代チベット医学者が、この療法に関する詳細な著述を残しています。《四部医典》では、頭部、首、上下体腔及び四肢の外傷に関する療法について各章が設けられ、人体血管の分布、神経の走行、臓腑の位置等が詳細に描述されており、また人体骨格、筋肉、リンパ等の急所部位についても述べられています。記載によれば、吐蕃王朝ティソンデツェン(西暦742〜797)の時代にチベット医学の手術療法は大きく発展したとなっていますが、当時の衛生状況では十分な消毒ができず、手術の失敗も頻繁に起こりました。また仏教では、人体を切り裂き、血を流す手術は良いことと考えられず、その後徐々に少なくなっていきました。



1.工具

すべて質の良い鋼或いは銅を用い、精巧に製作され、手元から先端向けて細くなっており、全長は6〜12cmです。
裸麦型針は、心臓、肺、関節、腎臓の疾病等に使用します。
蛙型刀具は、肝臓、脾臓、大小腸の疾病手術に用います。
湾刀は四肢の疾病に用います。
矛先針は四肢の膿液の排出に用います。
先端の尖った串は、頭部に針を打つのに用います。
空心蛙針は、心嚢に溜まった水を排出するのに用います。



2.穿刺部位
全身には合計121ヶ所の穴位或いは部位が存在します。

【心臓穴位】
心臓穴位は23ヶ所あり、第6胸椎と左右にそれぞれ一寸の3ヶ所があり、命穴として、命脈にルンと寒が侵入した症状を治療できます。第6胸椎左側の真っ直ぐな部分と飛檐(反り返った軒先のような形)の間に針を打つと命ルン(一種の精神病)を治療することができます。前半身、天突の下2寸のあたり(3寸という説もある)から更に左右1.1寸のところに渡鴉眼があり、この渡鴉眼から外に向かって1寸、上肋中部あたりにメゴチェンモと呼ばれる穴位(二つ)があります。メゴチェンモ穴から下に向かって下肋の中間あたりに"ゴチャンメ穴と呼ばれる穴位(二つ)があります。これら5ヶ所の穴位は肺穴、心穴、肝穴であり、ここに針を打つことにより、上半身の気を収斂させ、心機能障害、胸腔の膨張、過呼吸等の症状を治療することができます。

【肺の穴位】
肺の穴位は22ヶ所あります。肩甲骨と並ぶ肋骨の左右即ち第7胸椎の左右3寸の場所及びこの穴位から下に1寸のところに3ヶ所と合計6つの穴位があり、母肺の腫瘍に効果があります。左右の脇の下、1寸、2寸、3寸の位置、即ち上・中・下肋骨に3ヶ所、合計6つの穴位があり、肺飛檐から母肺肋の腫瘍を治療することができます。前胸両側にはそれぞれ5本の肋骨があり、各肋骨間の中央に4ヶ所、左右合計8つの穴位があり、これらは子肺穴と呼ばれ、子肺の腫瘍に効果があります。背部の肺穴は第4、5胸椎の各左右1寸のところに3ヶ所、合計6つあり、ルン、ペーケンが侵入した小肺の疾病を治療することができます。黒白横隔膜穴は、即ち第8胸椎(一説には3穴)にあり、酸性物の嘔吐、胃と肝臓の不快感を治療できます。またこの穴位から垂直に伸ばした前胸部の穴位に直接針を打っても効果があります。

【肝臓及び脾臓の穴位】
肝臓及び脾臓の穴位は計14ヶ所。その内、身体正面に8ヶ所、背面に6ヶ所。乳頭の下2寸、即ち横隔膜のあたり(この下の肋骨と胸骨の接点に各4ヶ所、その間に三つの空隙がある)の下に1寸、2寸、3寸のところに各1つの穴位があります。右側の第1穴は胃や肝臓間にある腫瘍に効果あり、第2穴は肝臓下部の腫瘍に効果があります。第3穴は肝臓の下端の腫瘍に効果があります。左側の第1穴は胃と脾臓間の腫瘍に効果があり、第2穴は脾臓下部の腫瘍に効果があります。第3穴は脾臓下端の腫瘍に効果があります。背面の第9、11胸椎から左右に各3ヶ所穴位があり、ルン、ペーケンの侵入による肝臓、脾臓の寒性疾病に効果があります。

【腎臓の穴位】
第十四椎(即ち第2腰椎)の左右1寸のところに3つあり、腎黒脉穴と呼びます。更に外に向かって1寸のところを腎種穴と呼び、更に外側に1寸のところを腎脂穴と呼びます。椎尾から黒大肌に至る1チャ(手を大きく開いた時の親指から人差し指までの長さ)を寛骨眼と呼ぶ、或いは腎種穴から下へ6横指(6〜12cm)のあたりを寛骨眼と呼びます。寛骨眼から各4辺1寸の場所と寛骨眼を加えて計5ヶ所の穴位があります。その他に下腿と大腿の両外側のシワ部分は脾臓、黄水を治療し、黄水を排出する穴位2穴をはじめ計21ヶ所の穴位があり、針を打つことによって腎寒風(冷たい風に吹かれたようなしみるような痛み)、黄水の氾濫に効果があります。また腎脂及び腎種の2ヶ所の穴位は、腎臓腫瘍に有効です。もし触って硬いしこりがあり、痛みがある場合は、穿刺を施し病原を排除します。

【胃部の穴位】
胃部の固定穴位は9つあり、また打ち通すことができる穴位(身体正面から背面まで打ち通す)が2つ及び第12胸椎を合わせて合計12ヶ所の穴位があります。9つの固定穴位は、剣状突起端から下へ1寸及び左右へ1寸の計3ヶ所あり、剣突穴と呼ばれています。そこから更に下へ1寸、左右へ各1寸の計3ヶ所の穴位は腫瘍穴と呼ばれます。そこから更に下へ1寸、左右へ各1寸の計3ヶ所は等火穴と呼ばれます。胃穴中央の左右各2寸のところは打ち通すことができる穴位が2ヶ所あります(肝臓の腫瘍が大きくなっている場合は、この2ヶ所の穴位に針は打たず、肝臓を傷つけないようにする)。胃部の穴位は、主に腫瘍の治療に効果があります。

【大腸の穴位】
合計5つ。臍から左右1寸のところに大腸下穴があり、ペーケンとルン及び寒邪気が大腸に侵入した症状に効果があります。そこから更に左右へ各1寸の計2ヶ所あり、これを大腸腫瘍穴と呼びます。更に第十六椎(即ち第4腰椎)にも穴位が存在します。

【小腸の穴位】
合計7つ。臍の下へ1寸、そこから左右各1寸の計3ヶ所の穴位があります。そこから更に下へ1寸、左右各1寸の計3ヶ所があり、小腸下穴と呼ばれています。また第十七椎(第5腰椎)にも穴位が存在します。

【子宮の穴位】
第十三椎(即ち第1腰椎)と第十五椎の計2つがあります。子宮腫瘍、ルン寒症が引き起こす不妊に効果があります。

【睾丸の穴位】
腹下部の寛骨眼と呼ばれる穴位から1寸のところに下躯的分穴が2ヶ所、更に第十八椎穴を合わせて計3ヶ所があり、睾丸膨張、寒性の多尿、排尿障害等に効果があります。

【四肢の穴位】
四肢の大関節に各1ヶ所あり、計12ヶ所の穴位が存在します。この12ヶ所の穴位と上述の2つ寛骨眼は、黄水氾濫に効果があり、針を骨まで或いは背面まで打ち通すことができる穴位です。



3.分類
針療法には熱性と寒性の2種類の方法があります。

熱性針療法は3種類があります。一つは針を加熱してから打ち込みます。瘰癧(首のリンパ腺が結核菌に犯されて発症する病)、炭疽、甲状腺腫、膿腫等の治療に効果があります。二つ目は穴位に灸をすえた後、再度針を打つことによって膿包(腫れ物)が穴中にあるか究明し、それを排除することができます。三つ目は加熱した針を打った後、灸をすえると、瘰癧、炭疽、古傷、腫瘍等を治療することができます。

寒性針療法は3種類があります。針を加熱しないで直接打つ方法は、腎臓水腫及び視覚障害、膿腫を治療することができます。針を熱しないで打ち込み、その後そこに灸をすえると、潰膿、関節に水が溜まる等の症状を治療することができます。針を熱しないで打ち、その後冷えた石を用い、冷水を吹きかけると、筋肉の麻痺、熱性腫脹、頭部の黄水滞積、熱性腫瘍、陳旧熱症等を治療することができます。一般的には先に灸をすえ、その後針を打ち、そして再度灸をすえると更に効果的です。



4.針を打つときの姿勢
針を打つ場合、患者はあぐらをかき、両手は力を抜いて膝の上に乗せ、背を真っ直ぐにした正しい姿勢で敷物の上に座ります。医者は助手の補助のもと針治療を行います。
胃部の針治療は食後に行い、その際助手は膝で患者の背中をしっかりと固定し、医者は前から治療を行う。頚部に針を打つ場合は、患者に四つ這いにさせ、臀部は両足に下ろし正座のような姿勢で、胸部を高くし、首を少し曲げさせます。
心臓の穴位に針を打つ場合は、脇を締め、前腕は広げ、胡座をかいて座る、両手は脛を掴み、背中は柱等にもたれるようにします。
寛骨眼に針を打つ場合は、壁に張り付くように直立します。膝蓋や、肘関節に針を打つ場合は、足や手を真っ直ぐに伸ばすようにします。



5.穿刺方法
基本的な方法としては、医者は右手の親指と人差し指で、針の先端から半横指(約1cm)のあたりをつまみ、左手の親指と人差し指で穴位を押しながら、針を刺します。その後右手で針の腰部をつまみ、裸麦の粒の長さ程度まで針を皮膚に打ち込みます。打ち抜く場合は、半横指(約1cm)ずつ滑らせながら、徐々に深く打ち込んでいきます。針が骨頭や臓腑まで達したかどうかは、医者の感覚、針の打ち込み具合、患者の表情の三つを観察して判断します。

穿刺の具体的方法としては、
【直進】
頭部、脊椎、下腹等の部位に打つ場合。

【横旋】
皮膚と筋肉に打ち、内臓に達しないようにする場合、例えば肝臓、脾臓、腎臓等付近に打ち込む場合。

【下刺】
即ち、針を皮膚に打った後、針の先端を真っ直ぐ下に向けて打ちこんでいく方法。頚部、肺、心臓、剣突穴の3ヶ所に打つ場合に用います。

【上刺】
即ち、針を皮膚に打った後、針の先端を真っ直ぐ上に向けて打ち込んでいく方法、等火穴、小庫(膿包、胸腔の空虚部分)に用い、膿点を探します。

【十字形】
針を皮膚に打った後、針の先端を上下左右に打ち込んでいく方法、胃部中間の腫瘍穴や膿点を探す場合に用います。

【穿透法】
胃下穴、トゥリー眼(身体正面、背面に針を打ち抜いてもかまわない部分、例えば鴿子穴及び太腿の皺がある部分)等に用います。

【子不傷母法】
胸腹部位、傷及び五臓六腑に用います。

【母不傷子法】
病状が危険に陥りやすい部位の症状、例えば眼翳を除去するような場合に用います。心嚢に水が溜まる、肝臓腫、腎臓腫、内臓器官の外側の膜内に形成される膿が凝固したものを排除するような場合にも、皆この方法を用いることができます。



6.治療後処理
治療後は、膿、黄水、血液等を綺麗に拭き取り、厳重に消毒します。治療後2〜3日して熱病、炎症、腫瘍の痛み等がある場合は、《四部医典》に記されている傷熱拡散処置の一章を参照し、治療を行います。
臓腑の急所に針による傷がある患者は、臓腑の傷治療の一章を参照し治療を行います。治療後、トルウィルンが発生した患者は、火に柏の木の枝をくべて炒めた麺等で傷口を塞ぎ、四肢の掌などのルン穴には、ニクズクとバターを混ぜたものを塗り込みます。チベット砂糖から作った酒や骨のスープ等栄養のある飲食を行います。更にルン穴に灸をすえ、ルンの暴走を抑制する処置を行います。
傷口からの出血は、寒さが原因であるため、厚着をします。また裸麦を炒めたものを温めて食してもよいでしょう。水腫の破裂、臓器や皮膚、関節、脈道等への拡散、また腫脹が見られる患者の場合は、四味或いは八味石榴散を用います。黄花杜鵑花から作った薬など、熱性の薬、或いは水腫を排除する薬、灰薬、パンナナポ(Aconitum pendulum Busch.)に骨のスープを加えたものは黄水を乾燥させる薬物治療としてもちいることができます。



1.適応症
一切のルン病、ペーケン病、寒症、消化不良、腫瘍、腹水。気の過密、筋肉の麻痺や腫脹、壊血、黄水病、膿、関節に水が溜まる、薬剤では効果がないその他の疾病には、全てこの針療法が有効です。



2.禁忌症
高齢による体力低下、小児、意志薄弱者、医者の言うことを聞かない患者、肝臓、脾臓腫瘍の漏水が酷い患者、熱性腫瘍の拡散患者、心臓等五臓六腑に外傷があり、それが拡散或いは熱性病が治癒していない患者はこの療法を行うことはできません。また血液、チーパから引き起こされる一切の熱症、特に生命の危険を伴う脈、脂肪、臓腑の急所には針療法を用いてはいけません。



3.長所と短所
針療法はルンを抑制し、胃熱を増強、腫瘍を破壊し、消化を助け、ペーケンとルンの過密を分解する。また腫れを抑制し、黄水、膿血、腹水等を排除する効果があります。しかし適応症を理解せず針を打つことは無意味な治療であり、また禁忌症を理解せずに針を打つことは無意味であるどころか、逆に副作用を生み、生命をおびやかす可能性さえあります。針工具の形状、長さ、鋭鈍等が不適切、針を打つ姿勢が正しくない、このような場合にも本療法は効果を発揮しません。穴位を理解せず、穴位の無い部分に針を打っても骨に当たるだけです。針の分類を知らなければ、誤診を起こしやすくなります。方法を理解していなければ、急所を避けることができません。つまり針療法を完全に理解し掌握してこそ、有効であり、不測の事態をまねくことがないと言えるのです。



4.注意事項
針を打つにあたっては、特にその死兆(致命的となる症状)に注意を払う必要があります。死兆には、疾病に触れた時の死兆、急所に触れた時の死兆、トルウィルンを誘発した時の死兆があります。前二者について、針の打ち方は既に述べていますが、特に脈の急所に触れた場合、痺れや痛みがあればすぐに針を止める必要があります。トルウィルンを誘発した時、患者に欠伸、嘔吐、震え、四肢の反り返り等の症状が現れるため、慎重に行う必要があります。



5.原理探求
針療法の効能には二種類があります。一つは中国医学の針と同様で、固定穴位に針を打つことにより経絡を刺激し、血行を促進させて、気をめぐらせ、人体の免疫能力を増強・改善させることによって治療の目的を達するというものです。もう一つは、針を打つことで、体内の積水、膿血を排出し、腫瘍、気の過密をなくし、治療の目的を達するというものです。




 

Copyright(C) 2007-2009 ARURA TIBETAN MEDICAL CENTER.All Right Reserved.