1.油脂療法
2.瀉下療法
3.催吐療法
4.滴鼻療法
5.浣腸療法
6.利尿療法
7.罨法
8.薬浴療法
9.塗擦療法
10.針療法
11.蓬灸療法
12.瀉血療法 |
蓬灸療法はチベット医学において最も利用される外治療の一つです。蓬の柔らかい部分を、病状に合わせて大小の艾とし、直接的或いは間接的に穴位に置き、灸をすえることにより疾病を予防・治療するという療法です。この療法は、ほかの医学の要素を不断に吸収し、チベット医学の理論と自らの経験を充実且つ豊富なものとするために、日々完成に向けて研鑚を重ねてきたものです。《四部医典》では、第四部第21章が灸法の専門章としてあてられています。灸法の応用範囲は広範に渡り、チベットの医師は艾を常に携帯し、大部分の疾病にこの蓬灸療法を施します。チベット医学における灸療法の真髄は、膿を排除することを目的とした灸です。また、その療法はチベット医学理論を基礎に置き、穴位の選択、適応症、禁忌症、方法等において中国医学とは異なった部分が多く、ある種の疾病の治療には多大な効果をあげることができます。
1.モグサの制作
秋季の吉日を選び、蓬を採取します。繰り返し叩き茎を折るようにしますが、葉は壊さないようにし、よく揉みながら円錐状にします。
●関節に用いる場合は、親指程度の大きさにします。
●頭部、四肢に使用する場合は、小指の先くらいの
大きさにします。
●瘰癧や脾臓腫大症に用いる場合は、アルラほどの
大きさ(親指大)にします。
●小児の胃部に用いる場合は、えんどう豆程の大きさにします。
これらは病状と体質に基づき決めます。
2.操作方法
病状の違いに合わせて、火力の強弱で、煮法、焼法、焙法、擬似法の四種があります。
●煮法……できものによる痛みや腫瘍に効果があります。
●焼法……黄水病、精神病等に効果があります。
●焙法……ルン病、寄生虫病及び排尿排便障害に効果があります。
●擬似法…子供に用います。
3.蓬灸穴位
チベット医学の灸穴位は2種に大別され、患者の痛む部分に合わせて穴位を選択します。第二には、医師が五臓六腑の特定穴位を選択する方法です。常用の穴位は《四部医典》では71ヶ所とされています。現在常用されている灸療法の穴位は以下のようになっています。
(1)背部穴位
計23ヶ所、チベット医学では第7頚椎を第一椎として数えます。第一椎から下に数えて第十四椎に至るまで、各椎間の間にそれぞれ一ヶ所(この穴位から左右それぞれ一寸離れたところにも灸をすえることができる)穴位があります。これら穴位は順に、ルン穴、チーパ穴、ペーケン穴、母肺穴、子肺穴、命脉穴、心穴、膈穴、肝穴、胆穴、脾穴、胃穴、サムスィ穴、腎穴と呼ばれる第十五椎下部から第二十二椎にいたる空隙はそれぞれ臓腑総穴、大腸穴、小腸穴、膀胱穴、固精穴、トゥセル・ルン門穴、肛門穴、寒症総穴、馬眼穴と呼ばれます。
【 背部穴位の効能】
●チーパ穴は主に、寒性の胆嚢病、甲状腺種等の疾病に効果があります。
●ペーケン穴は主に、肺、心臓、頭部等にペーケン、チーパが増大する、鼻詰まり、口と舌の乾燥等に効果があります。
●母肺穴、子肺穴は主に胸部の痛み、高熱による意識昏迷、喀血、伝染病、精神障害、背部の刺すような痛み等に効果があります。
●胃穴は主に、胃熱の衰弱、胃腫瘍、長期の下痢、腰と背部の筋硬直、目の痛み等に効果があります。
(2)胸腹部の穴位
●常用されるのは、頚下部の窪みのあたりにある天突穴で、心臓の締め付けるような痛み、しゃっくり、喉が詰まる等の症状に効果があります。
●両乳正中線上にある黒白際穴(膻中)は主に精神不安、征仲(せいちゅう:心臓が激しく不規則に拍動する症状)、うつ病等に効果があります。
●中肺から下1寸のところに小肺穴があり、一切の寒熱性肺病に効果があります。
●剣状突起端の三口穴は、胸肋部の膨張感による痛み、風邪に効果があります。
●剣状突起の下1寸のところにある剣突穴は、主に剣状突起の腫瘍に効果があります。
●剣状突起の下2寸及び左右各1寸のところにある穴、即ち痞穴は、主に胃熱の衰弱に効果があります。
●臍中(神闕)は、主に不妊症、月経過多、ルンによる子宮疾患等に効果があります。
(3))頭部の穴位
●後頭骨左右両辺には、精神病、多弁、失神に効果があります。
●承漿は、主にルンによる伝染病から起きる失語症の治療に効果があります。
●7横指の部分に灸をすえると、鼻詰まり、過度の鼻水等の症状を治療することができます。
●前髪生え際の真中あたりに灸をすえると、癲狂を治療することができます。
(4)四肢の穴位
両肩峰部分の下にある窪みに灸をすえると肩の関節炎を治療することができます。曲澤(きょくたく)は、腫瘍の治療に効果があります。
1.適応症
その他の療法で治療することができないあらゆる疾病に対して、この灸法は一般的に効果があります。即ち“薬効至らざれば、これ必ず灸を行う”です。適応症は消化不良に属するもの、胃熱の衰弱、浮腫、水腫、寒性胆のう病(目の周りが黄色くなる、発熱はなし、消化不良、右上腹部が痛む、大便が白色)、できものによる痛み、炭疽、虚熱、精神病、一切の脈疾病及び発熱後に発症する数多くの疾病にこの蓬灸は効果があります。総じてルン、ペーケンから起こる一切の寒性疾病に等しく効果があり、またその効果も大きいです。
2.禁忌症
灸の禁忌症としては、一切の熱性チーパ病、血病、五官の詰まり、男女生殖器、動脈の拍動部分には灸を用いてはなりません。陰毛の隙間上部にある動脈(恥骨上部に位置する)に誤って灸をすえると、インポテンツを発症し、生育作用に支障をきたす恐れがあります。
3.注意事項
化膿の灸を施す場合、一般的に灸を行って5〜10日で局部に無菌化膿が発生します。場合によっては、発赤、痒み、膿液が出る等の症状が出ることがありますが、特に処置は必要ありません。ただし、灸を行って患部のカサブタが取れるまでは、入浴しないようにし、感染を予防します。膿液が多く、或いは膿の色が薄い白から黄緑色へ変化している場合、また痛みを伴う出血、臭いがある場合、これらは全て細菌感染している症状であるため、龍胆紫を塗布するか、外科処置を施します。灸の痕は一般的に15〜30日ほどで消えますが、局部的には痕が残る場合もあります。
4.原理探求
蓬灸は人体の抵抗力を増強させ、免疫機能を調整する作用を持ちます。機能低下を症状とする疾病に用いるだけでなく、疾病予防と健康維持にも効果を示します。チベット医学で常用される穴位は主に首、胸、腰椎下部或いは四肢に近い大きな神経幹に分布し、末梢神経からその効能が浸透していきます。即ち大脳皮質、自律神経、内分泌系、免疫系の調節を促進し、ルン、チーパ、ペーケン(チベット医学基礎理論の三大要素)のバランスを取り、疾病の予防、治療、身体の健康を維持することを目的とします。
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