チベット医学は、7世紀中頃のティソン・デツェン時代から独自の理論システムに発展しましたが、それ以前は感性的認識や経験の積み重ねからのレベルで、理論体系は完全ではありませんでした。 初期チベット医学理論著書《月王薬診》は、おそらくティソン・デツェン時期に書かれたものですが、チベット人民の長年にわたる医療経験を基礎とし、他民族の医学知識を吸収して編さんされたものです。内容は、医学と薬学を組み合わせた形式で、チベット医学の解剖と生理・病理・薬理など、各方面の基本理論が論述されています。また、780種の薬材の各種性質・味・効果及び処方や調剤まで細かく記述されており、この時代の医学典籍はチベット医学が新しい時代に入ったという証で、ほぼ完璧にチベット医学の基礎理論を記述したものでした。 人体解剖については、食物からの栄養、血、肉、脂肪、骨、骨髄、精液及び経血の“七つの物質要素”は人体構造の基礎であるということ、生理と病理については、「ルン、チーパ、ペーケン」の“三要素”学説を核とした理論システムが確立されました。チベット医学の“七つの物質要素”“三要素”の学説は古代ギリシアの“七つの基礎要素”“三種の活力”の原点と合致しており、これについては更なる研究を行う価値があるでしょう。 【参照⇒「チベット医学理論」】 もうひとつの成就は、いろいろな民族の医学、知識を吸収し、それを基礎としてチベット医学独自の「脈診」を確立したことです。これらの臨床実践は、チベット医学の完全な理論システムの確立と発展の基礎を築きました。