チベット高原(青蔵高原)は、次のような自然環境を持っていることから、地球で「第三極」といわれています。
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平均海抜4000m以上
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厳寒で酸素が少ない
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太陽の照射時間が長く、紫外線の輻射が強い
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昼夜の温度差が大きい
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地形が複雑で、環境汚染がほとんど無い
チベット高原の自然環境で育った高原植物は、種類も豊富で、薬用に使用される植物も2,085種を数えます。
チベット薬の薬用植物は、ほとんどが海抜3,800m以上の厳寒の草原や高山流石の疎らな浅瀬部分に分布しています。その内、4,200m〜4,800mの間に垂直に分布している植物が主な薬材の源になります。また、4800m以上の永久的な氷雪帯の間にあり高山流石の疎らな浅瀬部分は、厳しい風雪により物理風化が作用し、砂利の隙間に細かい砂が溜まって高山植物の成長に可能な条件を作り出しました。ここに育つ植物は稀少品種ですが、厳しい自然環境と断固戦い、高山を征服した植物ですので、そのほとんどがチベット薬の重要な薬材として使用されます。
さらにチベット薬に使用される植物は、寒さ、干ばつに強いだけでなく、異なった酵素が作用したうえで、光合成が十分あり、活性が豊かなため、有効成分を大変多く含んでいます。
高原以外に分布する植物にはないこれらの特徴が、チベット薬の著しい効果の重要な要素になっています。
■アルラ
■馬尿泡
■ジヤング
■ホンレ
■沙棘
■冬虫夏草
■オンブ
■オーラ
■雪蓮花
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中国語名:訶子[he zi]
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チベット名:アルラ[a ru ra]
シクンシ科植物訶子/訶黎勒(カリロク)Terminalia chebula Retz.および変種の絨毛訶子T.chebula Retz.var.tomentella(Kurz.)C.B.Clarke.の果実
1、 訶子
落葉高木18〜30m樹皮は灰黒色か灰白色。海抜800〜1540mの林の中あるいは林の縁の太陽が当たる場所に生息。
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花期5月
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果期7〜9月。
2、 絨毛訶子
高木30m樹皮は灰黒色。花は淡い緑色。海抜800〜1540(〜1800)mの林に生息。
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花期5月
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果期6〜7月。
●採取
8月果実が成熟したときに採取。汚れを取り日干しする。
●性質・効能
苦味、酸味、渋み、温性質。ルン・チーパ・ペーケンの調和を促す。
●適応症
血病、ルン病、チーパ病、ペーケン病および4つの合併症。
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中国語名:馬尿泡[ma niao pao]
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チベット名:タンチョンカルポ[thang phrom dkar po]
ナス科馬尿泡Przewalskia tangutica Maxim.の根、根茎、種子。
多年生宿根植物(草本)、全株は繊毛で覆われ、根は太く頑丈で長さ20cm前後、直径3〜5cm。花冠は紫色。海抜3.200〜5.200m高山砂礫、乾燥地、道脇に生息。
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花期6月
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果期7月
●採取
8月に果実が成熟した時、採取し、切って日干しをして種子を取る。
秋末に地上部が枯れた時、根を採取し、洗い、日干しもしくは切って日干しをする。
●性質・効能
苦味、寒性。鎮涼、殺虫、消毒。
●適応症
寄生虫病、炭疽、ジフテリア、急性扁桃炎、胃病、腎臓病、精神異常、黄水病、外用として、腫れ物、皮膚病。
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中国語名:甘青青蘭[gan qing qing lan]
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チベット名:ジヤング[bri yang ku]
シソ科Dracocephalum tanguticum Maxim.の乾燥全草あるいは花。
多年生直立草本、高さ25〜50cm。花冠は青紫から暗い紫色。海抜3000〜4600mの高山の低木の密集した場所、松林周辺、丸石のある草原、乾燥した河谷の両岸に生息。
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花期7〜8月
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果期8〜9月
●採取
花の最盛期に採取し、泥を取り日干しあるいは花のみ摘み取り陰干しをする。
●性質・効能
甘味、苦味、涼性質。清肝熱、胃熱、止血、傷を癒す、黄水を乾かす。
●適応症
肝熱病、胃熱病、黄水病、苗は腹水、浮腫。
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中国語名:兔耳草[tu er cao]
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チベット名:ホンレ[hong len]
ゴマノハグサ科短筒兔耳草(短管兔耳草)および同種の植物の全草。
1、 短筒(管)兔耳草
Lagotis brevituba Maxim.
多年草低草本、高さ5〜17cm。花冠は藍灰色。海抜3500〜4800mの高山の石地帯の陰に生息。
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花期6〜9月。
2、 大萼兔耳草
Lagotis clarkei Hook.f.
多年生草本、高さ10〜20(〜28)cm。海抜4600〜5300mの高山の低木の隙間、湿原、山坂の石があつまった草地。
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花期7〜9月。
3、 大筒兔耳草
Lagotis macrosiphon Tsoong et H.P.Yang.
多年生草本、高さ10〜15cm。花冠は白か紫色。海抜4600〜4750mの山坂の石が集まった場所、山頂の砂地、積み上げた石の周りに生息。
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花期6〜7月。
4、 圓穂兔耳草
Lagotis ramalana Batalin.
多年生低草本、高さ5〜8cm。海抜4000〜5300mの高山草地に生息。
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花期5〜8月。
●採取
花の最盛期に採取し、枯葉や泥を取り除き、日干しをする。
●性質・効能
苦味、寒性質。清熱、涼血。
●適応症
臓腑熱病、騒熱病、血熱病、チーパ病、腸の絞められるような痛み、炭疽。
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中国語名:沙棘[sha ji]
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チベット名:デブ[star bu]
グミ科植物沙棘Hippophae rhamnoides L.ssp.sinensis Rousi.および同種植物の乾燥果実。
低木あるいは小高木、一般的には1.5〜10m。海抜3200m以上の高山では低木が育つ。雄雌異株。果実は卵型で直径6〜9mm、橙色で強烈な酸味がある。海抜1800〜4000mの河川の可耕地、河谷の低地と山坂に生息。
●採取
冬季に果実が凍結した時に採取。汚れを取り除き乾燥させる。
●性質・効能
酸味、涼・鋭・軽性質。利痰、消食活血。
●適応症
肺病、咽喉病、ペーケン病、肺と腸の腫瘤、消化不良など。
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中国語名:冬虫夏草[dong chong xia cao]
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チベット名:イエツアゲンブ[dbyar rtswa dgun 'bu]
麦角菌科冬虫夏草菌Cordyceps sinensis(Berk.)Sace.のコウモリガ科昆虫蝙蝠蛾などの幼虫の死体との複合体。主に鱗翅目、鞘翅目などの幼虫に寄生する。海抜3000〜4000mの高山の林地、まばらな草原の坂に生息。
●採取
夏至の前後、積雪がまだ融けない時期に山に入り採取。採取後、泥のような繊維状の付着物および皮膜を取り、日干しをする。
●性質・効能
甘味、温性質。滋肺、補腎。
●適応症
ペーケン病、肺病、筋骨の疼痛。
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中国語名:水柏枝[shui bai zhi]
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チベット名:オンブ['om bu]
ギョリュウ科植物水柏枝Myricaria germanica(L.)Desv.など同種植物の若い枝。
低木、高さ2.5m。枝は赤茶色。花弁は5枚からなり、花冠はピンク、白、赤紫色がある。水辺、川岸に生息。
●採取
春、夏季に採取。若い枝を切り取り、日干しをする。
●性質・効能
渋み、甘味、涼性質。清熱解毒。
●適応症
中毒症、黄水病、血熱病、伝染病、臓腑毒熱。
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中国語名:手掌参[shou zhang shen]
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チベット名:オーラ[dbang lag]
ラン科植物手参Gymnadenia conopsea(L.)R.Br.の乾燥塊茎。
多年生草本、高さ20〜80cm。塊茎は4〜6に分かれ手掌のようであり、表皮は白か黄白色で内面は白色である。海抜3000〜4000mの高山の草地や石や砂が集まった場所、まばらに群生する林に生息。
●採取
秋末に地上が枯れた時、あるいは春末若葉が出始めた時に塊茎を採取し、泥を落とし洗浄し、葉や地上茎を取り除き、
化学成分:塊茎は粘液質、でんぷん、蛋白質、糖、シュウ酸カルシウム、無機塩など
●性質・効能
甘味、渋み。温、重性質。補腎益気、生精、潤肺。滋補、補腎、補血、回春→免疫賦活、強精
●適応症
肺病、肺虚咳喘、肉食中毒、遺精、インポテンツ
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中国語名:雪蓮花[xue lian hua]
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チベット名:シャゴスパ[bya rgod sug pa]
キク科キク亜科アザミ連水母雪蓮花Saussurea medusa Maxim.および同種植物の全草。
1、 水母雪蓮花
一年生草本、高さ15〜25cm。全株は白あるいは灰白色の長い毛に覆われており、外形は綿球状である。海抜3800〜4800mの積雪した高山の石の隙間に生息。
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花期7〜8月
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果期8〜9月
2、 綿頭雪蓮花
Saussurea laniceps Hand.-Mazz.
多年生低草本、高さ10〜25cm。全体が細かく白か淡い黄色の長い毛で覆われている。海抜4500mの高山の岩が風化して沙が溜まった場所あるいは岩の隙間に生息。
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花期6〜7月。
3、 槲葉雪蓮花
Saussurea quercifolia W.W.Smith.
多年生草本、高さ15cm前後。海抜3800〜4200mの高山の丸石がある草原の坂に生息。
●性質・効能
甘味、わずかに苦味、温性質。解毒、除湿。
●適応症
内服では炭疽、関節リウマチ、月経痛。外用では腫脹。
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