1.油脂療法
2.瀉下療法
3.催吐療法
4.滴鼻療法
5.浣腸療法
6.利尿療法
7.罨法
8.薬浴療法
9.塗擦療法
10.針療法
11.蓬灸療法
12.瀉血療法 |
チベット医学における瀉下療法とは、排泄を促進する効果のある薬剤を服用し、臓腑内の病原を体外に排出することで、治療の目的に達する療法です。西暦720〜740年、現在現存する最古のチベット医学書の一つである『月王薬診』は、その時の唐とインド等周辺民族の医学を参考にして編纂されたもので、書中には瀉下療法についても記述されています。西暦8世紀、ユトク・ユンテングンポによって編纂された《四部医典》にも特に二章が割かれて瀉下療法について述べられています。後世のチベット医学に関する名著にもほぼ全てに同療法は記載されており、瀉下療法は千年の時を経て尚衰えず、現代においても利用されています。
1.治療前の診察
(1)下剤を使用できるかどうかを診察。
(2)瀉下療法を行う時期の診察
疾病が成熟段階に達している患者、病原が既に胃中に停滞している患者、既に腫瘍の治療を施した患者、慢性疾病の患者、病状が活動期にある患者のような条件に当てはまる場合は、瀉下療法を行うことができます。しかし濫用することはできず、治療を行う時期が早すぎれば完全に病原を絶つことができず、逆に遅すぎると疾病がひどくなり、治療の目的を果たすことができなくなります。
(3)患者の体質を診る
疾病が長期にわたり体力が衰弱している患者、食事が取れない患者、脈に力がなく、脈象に細・速、震え、間欠がある患者にはこの療法を行うことができません。
2、治療前の準備
(1)前準備
突発性の疾病以外、最短でも7日前までに煎じ薬或いは散剤を用い、拡散している病原を収斂させ、腫瘍を攻撃し、発熱を伴う伝染病等の疾病を成熟(病状最悪期を脱すること)させておく必要があります。
●四味蔵木香湯は発熱を伴う伝染病の成熟を促進させ、三果湯は血熱病(火熱が内積して、血分に侵入し、血液を妄行させるか局部血行壅滞の証候を指す)の成熟を促進させます。
●三味デュッタ湯は胆熱病の成熟を促進させます。
●黄水病患者は、文冠木(Xanthoceras sorbifolia
Bunge)、小檗皮湯を服用し収斂させます。
●チーパ病患者は、デュッタ(Swertia mussotii Franch.)、蔵木香、小檗皮湯を服用し収斂させます。
●血液の悪性腫瘍が発生し始めたころならば、まず瀉血療法を用い、体内の血熱を排泄する必要があり、既に長期にわたって発症している場合、焼き塩、スィツァ(Nitum)、沙棘をクリーム状にしたものと芒硝を完全に混ざり合うまで細かく磨り潰し、長期に渡り服用した後、瀉下療法を行います。
●寄生虫による悪性腫瘍の場合には鷲の糞、ジャツァ(Salmmoniacum)、シタンカ(Embelia
oblongifolia Hemsl.)、阿魏、麝香、紫鉚(Butea monosperma(Lam.)Taub.)を共に内服し、病状が改善した後、瀉下療法を行います。
●悪性水腫の場合には、貝殻を灰にしたもの、冬葵子、カニ、ジャツァ、海金砂などを磨り潰して服用し、病状が改善した後、瀉下療法を行います。
(2)急病の場合の準備
急病の場合は、瀉下療法を行うために二日間待ちます。野生のヨモギの草全体と酒かすを煎じて煮たものを温めて全身を洗い、更に油脂(熱症には新鮮な溶かしバターを、寒症には植物油を用いる)を塗擦して全身をマッサージします(腹部と膀胱付近は除く)。
●ルンの増大または腹部に張りがある患者は、小さじ二杯分の溶かしバターを服用し、アルセニョン(アルラの一種)を服用します。
●ルンの増大が重度の場合は、緩浣腸を用い、これによりルンの暴走を抑え、チーパ、ペーケン病の発生を抑制します。つまりルンは瀉下療法の大敵であり、その中ゲンギュ・ルン(上昇するルン)の増大は、瀉下療法を行うと嘔吐を止まらなくさせる可能性もあります。
●またメニャム・ルン(火を伴うルン)の増大は、胃及び腹部の張れを引き起こします。
●トゥセル・ルン(下降するルン)の増大は下痢を止まらなくさせ、トルウィルンの病、虫怒症(体の中の細菌が暴れることによって生じる症状)等を引き起こすことにもなります。
故に療法を行う前には先ず、徐々に慣らしていき、慎重に行う必要があります。
全体的に各疾病に対して望ましくない食物を摂取することは疾病の悪化を招くことになります。療法を行う前夜には、飲食物には調味料等を含んではなりません。油脂とイラクサのスープは病の悪化を引き起こしますが、胃と腹部を軟化させ、ルン病の悪化を抑制する効果があります。
●療法を行う一日前には、麦粥、油を含むスープを摂るとペーケン病、チーパ病を引き起こす可能性があります。
●青菜のスープを摂るとルン病、特に血液病、チーパ病を引き起こす可能性があります。
●古い食物や長期期間貯蔵した酒、醗酵系の酒を摂るとムープ病を引き起こす可能性があります。
●長期間寝かせた或いは醗酵させた魚類または豚肉を摂るとペーケン病とチーパ病の合併症を引き起こす恐れがあります。
●新鮮な魚類、豚肉を摂ると中毒症を引き起こす可能性があります。
●生の牛乳を飲むと寄生虫病、急性伝染病、ペーケン病等を発症する可能性があります。
3.瀉下療法を行う
(1)清道剤(内臓内、小大腸の通り道を綺麗にする薬剤)
夜中にアルセニョン、大黄、亜大黄、ジエンツァ(Light halite)及びヒハツ(Piper Longum L.)を煎じたスープを服用します。服用後、療法が効いた患者は便が軟らかくなり、胃腸が鳴るだけの患者は便が正常になり、無反応の患者は便が硬くなります。便の硬さの程度に合わせて、下剤の服用量を調節します。もし便が硬ければ上記の清道剤の服用が少なすぎたためであり、これでは疾病を排泄することが困難のみならず、その他の疾病を誘発する恐れがあります。もし便が軟らかければ清道剤が多すぎたためであり、下痢が止まらず腸を傷つける恐れがあります。上述の清道剤は便通をよくする作用があり、下剤を服用した際の嘔吐を防ぎ、下剤による胃腸への刺激を和らげる作用があります。
(2)瀉下処方薬
1.四味勇猛舵手丸
アルセニョン、巴豆(Croton tiglium L.)の実(皮を剥き、芯を取り、灰で包み熱しておく)、"シリカンジャ"(熱したバターに浸しておく)、ヒマラヤ大戟(皮を剥き、筋を取り、ハダカムギと混ぜて炒めておく)以上の四薬を等分の割合で配合し水で溶き合わせてこねて固めた丸薬を、様子を見ながら服用します。本方薬は効果が激烈であるため、体力上問題のない疾病に使用するのが望ましい。
2.その他の専門方薬
●五味大戟丸
ユーフォルビア・ストラケイー(加工したもの)、亜大黄、トウダイグサ、チベット黄連、サルチメトを丸薬或いは散剤にし、瀉下療法を使用して波動熱症、急性伝染性熱病を治療します。
●三味澤漆散
トウダイグサ、硼砂、蒲公英の根付全草による瀉下療法により、チーパ病を治療することができます。
●十三味巴豆丸
巴豆、ヒマラヤ大戟、“シリカンジャ”、大戟、トウダイグサ、大黄、ステレラ・カマエヤスメ、ナンバンサイカチ、"ワンブ (Cyananthus
hookeri C.B.Clarke.)"、ジャツァ、亜大黄、銅垢、ヒハツにチベット砂糖を用いて丸薬にし、瀉下療法を利用して、水腫、腎臓水腫、鼓腸を治療することができます。
●六味大黄湯
大黄とアルセニョンを四分し、冬葵子、甘草、ジエンツァ、ヒハツを各分に入れそれぞれスープにし、瀉下療法を利用することにより消化不良、初期症状の軽い伝染病、胃病、肝臓病に効果があります。
(3)服薬方法
瀉下療法の薬剤は、湯薬、散薬、丸薬、油丸薬の四種に分けられます。
●年長者、衰弱者は、服用量を調節できる湯薬を用いるのが好ましい。
●体質が強壮である者で、病状が活動期にある場合は散薬、丸薬を服用し、吐き気がある患者は丸薬を服用するのが好ましい。
●腹が硬く、なおかつ吐き気がある患者は下剤と油丸薬と一緒に服用します。
患者には全ての薬剤を秘密にし、連続的に服用し排泄させます。薬剤の服用が長期に渡り、味に嫌気を感じている患者には、薬剤に少量の食物を混ぜ、薬味を抑えます。
(4)服薬時間
一般的に早朝の空腹時に服用し、服薬後は冷水で二、三度口を漱ぎます。蔗糖、チベット砂糖等の甘味のある食物を摂り嘔吐を防ぎます。それと同時に安静にし、話をせず、また横向きになって寝てはいけません。枕を背中にあてて座り、肛門をリラックスさせ、我慢をせず、排便感があれば排泄します。
(5)排泄促進方法
二、三度の服薬後、患者は胸のあたりがつまる、また吐き気がする等の症状が無くなります。はじめて瀉下療法を行う患者の場合、一般的にはお湯を多く摂取し、排泄を促進させます。しかし遅すぎても早すぎるのも好ましくなく、飲用が早すぎると(胸のつまりと吐き気が消える前に)吐き気をもよおし、飲用が遅すぎると病原を排出することができません。ルンが増大した患者は、骨のスープを摂り、排泄を促進させます。衰弱者の場合は、チベット砂糖のスープを摂ります。重度の熱病患者は、雪解け水を摂取します。排泄が緩慢な患者の場合、アルセニョンの先端を用いて排泄を促進させます。いかなる寒熱症の患者についてはお湯にジエンツァを加えたものを多量に摂取させることで排泄を促進させます
(6)排泄反応に対する処置
服薬による排泄の過程で、患者の虚弱が原因で意識が朦朧とし、吐き気はあるが吐けないときは、ルンが上昇しているのが原因であるため、油脂にニクズクを加えて磨り潰してオイル状にしたものを用いて全身或いは四肢、手の平をマッサージし、それとともにバター或いはチベット砂糖を燻して、骨のスープを服用して、ルンの上昇を抑制します。
(7)排泄回数の目安
●排泄の回数としては、30回程度が最良で、20回程度ならばまずまず、10回程度なら普通とします。
●排泄量としては、3Lが最良で、2Lならばまずまず、1Lならば普通とします。
●便の色としては、青味があり清水のようであれば最良とし、混濁のある痰のような色をまずまず、胆汁のような色を普通とします。
●引き続き瀉下療法が必要かどうかについては、患者の病状と体力の状態をみて決定します。患者の体力が強壮であり、病原が患者の体力をまだ全て奪っていない状況であれば引き続き瀉下療法を行います。患者が既に衰弱しており、体力の損耗が激しい場合は、瀉下療法を即座に停止します。また不測の事態を避けるため、病原が排泄され、排泄物が清水のようになっている患者の場合は、体力の強弱に関わらず下剤の服薬を停止します。
●瀉下療法終了後、患者によっては様々な不良反応が起こる可能性があれば、その場合には必ず処置或いは救命作業を行います。
4.治療終了後の処理
(1)吐き気を抑制
下剤の服用後、吐き気がある患者は、冷たい石を額に当てると共に、患者に酒等の香りの良いものを嗅がせます。頭髪を掴み、冷水を顔に吹き付けます。両肩を押さえ、身体が揺れ動かないようにします。
吐き気の原因は多様で、薬剤の刺激が強すぎる場合に吐き気をもよおす患者が最も多く、そのため薬材の取得はそれにふさわしい時期(下剤の薬材採取は秋末)に行い、薬剤の調合は必ず正しい方法で行います。服薬量過多により吐き気が引き起こされた場合は、一回の服薬量を減らし、服薬の回数を増やします。定時の服薬を徹底し、薬剤の効力が途切れないようにします。ルンの抑制が効かず、なおかつ吐き気をもよおす患者の場合は、上述の方法にのっとってルンを抑制し、ルンの抑制を優先させます。全ての患者の吐き気については、亜大黄を用いて吐き気を抑えることが最も効果的です。薬剤に対して嫌気がある及び胃薬の合わない患者の場合、患者が気づかないところで、食物に薬剤を混ぜ合わせます。これ以外に、下剤を服用する際には、患者にはできる限り話をさせてはならず、また動くことも好ましくなく、リラックスして座らせます。
(2)分散した病原を探す
服薬後、吐き気もなく、排泄感もない、無反応の患者の場合、その原因は薬剤の分散と病原の分散という二種類の可能性が考えられます。薬剤の効力不足或いは投与量不足により反応を引き起こすに至らない可能性もあるため、薬剤の効力が分散している場合には、処方を調整し、投与量を増やし、もう一度同じ方法を試す等の方法を行います。薬剤が胃腸で吸収され、なおかつ充分な排泄作用が発揮されない場合、軽い痛みを引き起こすだけに終わってしまいます。一方、病原の分散が原因と考えられる場合は、少量の酸酒を温めて服用すればよいでしょう。
(3)排泄の遅れ
服薬後も排泄がない場合、胃部に張りがあり硬くなっている患者については、油で炒めた麺、砂、炒めた裸麦等を温めたものを胃の部分に敷き、患者には激しい運動を控えさせます。以上の方法に効果がない場合、浣腸による排泄を行い、それでも効果が無い場合は、クリソスプレニウム・ヌディカウレ(Chrysosplenium
nudicaule Bge.)と“ワンブ”を同量ずつ煎じて内服し排泄を促進させ、胃の中に病原を残さないようにします。
(4)排泄過多
服薬後、排泄が止まらない患者については、熱、寒、薬効滞留、瀉下開放(肛門が開いたままになる)の四つの原因が考えられます。熱が原因で下痢が止まらない患者の場合、排泄物が金黄色で、異臭があり、多少の痛み、脈及び尿が等しく熱の症状を伴います。その場合は両肘及びの下腿の部分に冷水を吹きかけ、それとともにネパール黄菫(Corydalis
hendersonii Hemsl.)と星水を用いて磨り潰し、その下にたまった水を内服するか或いは七味胆散、四味ドゥモニョン(止瀉木)湯を服用します。寒により下痢が止まらない患者の場合、排泄物は水のようであり、においがなく、泡だって粘り気があります。その際は、脂身の多い肉のスープ或いは溶かしバターに五味子及び肉桂を加えたものを服用し下痢を止めます。薬効滞留が原因の場合は、ジエンツァを煎じたスープを服用するとよいでしょう。瀉下開放が原因の患者の場合は、下痢を止める薬を処方する必要はなく、安静にすればよいでしょう。しかし胆脈が乱れている患者の場合は、適時四味止瀉木湯に熊胆を加えたものを内服し、排泄を抑制します。以上四種の排泄過多を引き起こしている場合は、米、裸麦の粥、新鮮な肉のスープ、獣の骨、皮等を煮詰めたもの及び五味子、ヒョウタン、ゴムの木の実、鎖陽(Cynomorium
coccineum L.)、車前子等を少量ずつ頻繁に服用し、各種飲料及びお茶は摂ってはいけません。
(5)救命
下剤服用後、病状が激変した場合、かならず救命を行います。その際には以下の五つの状況に注意します。
1.ルンの鼓動が一定しない
服薬後調子が悪く、全身がだるい、吐き気、体力の消耗、意識昏迷或いは錯乱、耳鳴り、あくび、定まらない痛みがある患者の場合、ルンの鼓動が一定しないことが原因と考えられます。その際はバター、肉類等を火で炙り、痛む部分に油を塗って、そこに敷き暖めます。またニクズク、丁香、アルラを新鮮なバターを用いて手足の平にマッサージをしながら刷り込み、更に骨のスープを服用してルンを抑制します。以上の方法で効果がない場合は、セン門、第六、七胸椎の穴位と?中に灸をすえ、下痢を停止させます。
2.処方ミスによる症状
診断と治療の誤りが原因である場合、また排泄が必要かどうかの見極めを誤った場合、薬効による痛みがある場合は、患者が寒と熱のどちらに属するかを判断して、それにあった温と涼性質の薬剤を用いて治療をします。熱による痛みがある場合は、蔵木香、川木香(Vladimiria
souliei(Franch.) Ling.)を共に煎じて冷まして服用します。或いは四味蔵木香の湯薬を内服し、冷えた石を額にあてます。寒による痛みがある場合は、四味ジェンツァを内服し、油かすをパイ状にして温めたものを当てます。
3.吐き気の抑制
服薬後、激烈な咳または身体上部の刺痛がある患者は、吐き気を抑える薬剤の投与量が多すぎたために、薬剤が肺脈に進入したことが原因と考えられます。その場合は、箭葉?吾、刺参(Morina
alba Hand.-Mazz.)、ヒマラヤ大戟(以上三種は春季に発芽した際に採集する)を各等分、菖蒲、ジエンツァ、ヒハツ更に短穂兎耳草、甘草を煎じたものを加えたスープを服用し、ゆっくり吐き気を促します。或いは以上を水でこねて固めた丸薬として内服し肺内の薬剤を急速に排出する方法もあります。これらの方法でも効果がない場合は、“ノガ”、“ルートン”或いは“ガンツァ”等各部に瀉血処理を施します。肺の病状が既に重度の場合は、沙棘、甘草、川木香、余甘子、ヒハツ、藍石草、麻花リンドウ(Gentiana
straminea Maxim.)を各等分で磨り潰し、蜂蜜を用いて混ぜ、少量の酒で服用する。或いは二十五味冰片散に短穂兎耳草、サンツィ・カルポ、硫黄を混ぜて服用することで肺の病状の進行を抑えることができます。
4.寄生虫の暴動
服薬後、体内の寄生虫を触発し、その蠢動が引き起こす激烈な腹痛がある場合は、虫下しを服用します。或いは馬銭子(マチンの種)一粒を磨り潰してバターで包んで服用します。或いは穿山甲(せんざんこう)を磨り潰したものに新鮮なバターを加えて丸薬にし、お湯で服用すれば、虫下しになります。
5.処方停止
衰弱している患者の場合、効き目のきつい下剤に耐えることはできないため、病原が排泄されていないとしても、処方を停止するのが好ましいでしょう。続けて療法を行うと、病原は除去できても生命の危険を伴う可能性があります。
5.善後処理
瀉下療法を行った後の飲食については、米の粥、裸麦の粥等、油、肉等を加えない塩分の少ないさっぱりした飲食により身体の滋養を行い、その後除々に肉のスープや、濃いお粥等を与えていきます。
●熱病系、例えば伝染病性熱病、波動熱症等の発症初期に瀉下療法を行った患者は、冷水に少量のツァンパ(チベット人の主食、裸麦を炒った物)の粥、裸麦の粥、水を混ぜた乳製品等の涼性の飲食を心がけます。
●陳旧熱症に関しては、黄牛の肉のスープ、茶、冷めた湯等の涼性の飲食を行います。
●寒性の疾病により瀉下療法を行った患者の場合は、新鮮な或いは寝かせた羊の肉のスープ、薄い酒、溶かしバター等熱性の飲食を心がけ、除々にその量を増やしていきます。
熱性疾病の患者が熱性の食物を摂ったり、寒性疾病患者が涼性の食物を摂取したり場合、過渡の発熱、過渡の冷却が起こり、水腫や腫瘍などが発生する可能性があります。また食事の調整は最低でも半月は続ける必要があります。
1.適応症
伝染性熱病の成熟者、波動熱症及び熱病が既に峠を超えた患者、或いは病状が活動期の患者、中毒症が一応回復した患者、六腑の熱性疾病者、消化不良、腫瘍、浮腫、水腫、腎臓水腫、ペーケンムープ症、黄水病、ハンセン病、痛風、リウマチ、慢性関節リウマチ、寄生虫病、網膜混濁症状、旧性の外傷、特にチーパ病、に顕著な効果があります。
2.禁忌症
身体衰弱者、高齢者、妊婦、ルン病患者、胃熱が弱い者、肛門疾患、トゥセル・ルン(下降するルン)が上に逆流している者、嘔吐及び外傷、金属等の異物が体内にとどまり痛みがある患者等の場合、この療法を行うことはできません。また冬季には瀉下療法を行うことはできません。
3.長所と短所
瀉下療法には、その程度により強弱の分類があります。強めの療法を行うならば、体力の衰弱、ルン病、胃熱の衰弱等を招く可能性があり、熱性の食物を摂り胃熱の活性を補助する必要があります。弱めの療法を行った場合、病原が残留する恐れがあり、食欲不振、消化不良、病状の悪化、特にペーケン病及びチーパ病を誘発しやすくなる可能性があります。そのため、ジエンツァ、ザクロ等で胃熱を補助し、身体を滋養する必要があります。しかしながら、瀉下療法が有効に作用すれば、病原は速やかに除去され、ペーケン病やチーパ病を誘発することもありません。体が軽く、力がみなぎり、内臓機能が強化され、食欲も増進、大小便も正常に戻ります。
4.原理探求
チベット医学の理論からすれば、飲食居住のみならず、情緒の変化もまた病原進入の要素として、消化不良を引き起こす原因とされています。消化不良とは即ち、食物の栄養が身体において正常に消化されず、胃腸内部にペーケン病を引き起こす原因として停滞してしまう状態のことを言い、時が経つにつれこれが次第に病原へと変化すると考えられています。消化不良は、また身体のメニャム・ルン(火を伴うルン)の衰弱であり、エネルギーとなる物質と老廃物とを正しく分けることができなくなり、結果、老廃物が精華物質の通り道に流れ込み、チーパが肝臓に停滞し、血液の生産を阻害し、それが長期に渡ることによって、病気を生産、蔓延させることになり、結果として腫瘍、水腫、内臓膿瘍、痛風、黄胆、脈動腫瘍、ムープ病、脾臓病等多くの疾病となります。そのため、チベット医学では消化不良は全ての病の根源と考えられています。瀉下療法は、薬剤の効能を利用し、胃腸に蓄積された病の原因と考えられるものを速やかに排泄させ、胃機能を活性化させ、その胃熱を正常に戻すことを目的としています。胃熱が強ければ、即ちエネルギー生産も正常となり、造血機能も強化され、疾病も治癒するという仕組みです。
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